心理・福祉コラム

相手の機嫌が気になって疲れるとき

「自分が何とかしなければ」の前に分けたいこと

朝、職場で声をかけたら、いつもより返事が短かった。

家に帰ると、パートナーが少し不機嫌そうに見えた。

そんな小さな変化に気づいた瞬間、

「私、何かしたかな」

「あの言い方が悪かった?」

「何とか機嫌を直した方がいい?」

と考え始める人もいます。

相手が何も言っていなくても、表情や声のトーンを確認する。

空気が悪くならないように話題を変える。

自分に原因があるか分からないのに、とりあえず謝る。

こうした対応が続けば、人と一緒にいるだけで疲れてしまうこともあるでしょう。

でも、ここで考えたいのは、

「人の機嫌を気にする性格を直すこと」ではありません。

相手の変化に気づくこと。

相手を気遣うこと。

自分の言動を振り返ること。

そして、相手の感情まで自分が何とかしようとすること。

これらは、少しずつ違うものです。

相手の変化に気づくこと自体は、悪いことではありません

表情や声の変化に気づけることは、人との関係をつくるうえで役立つこともあります。

「少し疲れていそうだな」

「今日は話しかけない方がよさそうだな」

と相手の様子を見ることは、気遣いの一つです。

一方で、

相手が不機嫌そう
↓
自分が原因に違いない
↓
自分が何とかしなければ

と一気につながると、相手の状態まで自分の責任として抱えやすくなります。

厚生労働省委託「こころの耳」でも、人間関係や家庭の問題などは心理・社会的なストレス要因になり得るとされています。特に職場では、仕事そのものだけでなく、対人関係もストレスに影響します。

だからこそ、

「気にしすぎる自分が悪い」

と本人だけの問題にするより、

どんな関係の中で、何を引き受けているのか

を見てみる方が整理しやすくなります。

「自分のせいかも」は、まだ事実とは限りません

相手の返事が短かった。

ため息をついた。

口数が少ない。

こうした変化に気づいたとしても、その理由までは分かりません。

仕事で嫌なことがあったのかもしれない。

体調がよくないのかもしれない。

別のことで考え込んでいるのかもしれない。

もちろん、自分の言動が関係している場合もあります。

ここで、

「全部自分のせいではない」

と決める必要も、

「きっと自分のせいだ」

と決める必要もありません。

まず、

分かっていることと、想像していることを分ける。

たとえば、

「返事がいつもより短かった」は、見聞きしたこと。

「私に怒っている」は、自分の推測です。

この二つを分けるだけでも、頭の中で相手の気持ちを決めてしまう状態から少し離れられます。

気づく・配慮する・背負うは、同じではありません

相手の機嫌が気になるときは、関わりを4つに分けてみると分かりやすくなります。

① 気づく

「今日は少し様子が違うな」と認識する。

② 確認する

必要なら、

「何かあった?」

「私の言い方で気になるところがあった?」

と聞いてみる。

③ 自分の部分を引き受ける

もし自分の言動で相手を傷つけたと分かったなら、説明したり謝ったり、次の関わり方を考えたりする。

④ 相手の感情すべてを背負う

相手が機嫌よくなるまで自分が話題を変える。

自分に原因がなくても謝る。

相手の気分が戻るまで、自分も落ち着けない。

ここまで来ると、相手を気遣うことを超えて、相手の感情を自分が管理しようとしている状態になっているかもしれません。

「支える」と「背負う」を分けるのと同じように、

人間関係でも、

関心を持つことと、責任を全部引き受けることは別

と考えられます。

境界をつくることは、冷たくなることではありません

「相手の機嫌は相手の問題」

という言葉だけを見ると、

「放っておけばいい」

「人の気持ちは気にしなくていい」

という意味にも聞こえます。

でも、人との境界は、相手を切り離すためだけのものではありません。

自分のことだけを押し通すことでもありません。

厚生労働省委託「こころの耳」では、「アサーション」を、相手の気持ちや考えを尊重しながら、自分の気持ちや考えも適切に伝えるコミュニケーション方法と説明しています。

つまり、

相手を気にかける。

必要なら確認する。

自分に責任がある部分は引き受ける。

そのうえで、相手がどう感じ続けるかまでは、自分には決められない。

という関係もあります。

相手も大切にする。
自分も大切にする。

その両方を残すための境界です。

「機嫌を直す」以外にも選択肢があります

相手が不機嫌そうなとき、

「何とかする」

以外にも対応はあります。

「何かあった?」と聞いてみる。

今は話したくなさそうなら、少し時間を置く。

自分に関係することか確認する。

気になることを伝える。

今日は自分からは何もしない。

あとで話す。

距離を取る。

誰かに相談する。

どれか一つがいつも正解というわけではありません。

相手との関係、自分の余力、その場の安全性によっても選べる方法は変わります。

そして、一度選んだ対応が合わなければ、あとから選び直して構いません。

自分で選ぶことは、

誰にも相談せず、一人で全部判断することではありません。

人から意見を聞いたうえで、

取り入れる。

取り入れない。

保留する。

別の方法を試す。

という選び方もできます。

なぜ、そこまで相手の機嫌が気になるのか

相手の機嫌を気にしやすい人の中には、

「空気を悪くしないようにする」

「相手を怒らせないようにする」

ことで、これまで人間関係を守ってきた人もいます。

家庭や学校、職場などで、

周囲の様子を早く察することが役立っていた時期もあるかもしれません。

だから、

「顔色をうかがう癖をやめればいい」

と、それまでの関わり方を簡単に否定する必要はありません。

その方法で関係を守ってきた。

その方法が必要だった。

そのうえで、

今の自分にも、いつも同じ方法が必要だろうか

と確かめていく。

これまでの方法を否定するのではなく、今の関係に合う方法を選び直すという考え方です。

相手の機嫌が気になったときに、分けてみる

誰かの表情が曇ったとき。

返事がいつもより短かったとき。

まず、

「相手は今、不機嫌そうに見える」

ということと、

「その原因は私である」

ということを分けてみます。

そのうえで、

自分に確認できることはあるか。

自分が引き受ける部分はあるか。

相手に任せてよい部分はどこか。

今、自分はどこまで関わりたいか。

を見ていく。

相手の気持ちを大切にすることと、

自分の気持ちを後回しにすることは同じではありません。

相手の感情に気づける自分をなくすのではなく、
どこまでを自分が担うのかを選べるようにする。

そこに、人との距離を整える一つの道筋があります。

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