心理・福祉コラム

仕事の優先順位がつけられないとき

「段取りが悪い」で終わらせる前に整理したいこと

午前10時。

今日中に仕上げる資料を作っているところへ、

「これ、できれば午前中にお願い」

と別の仕事を頼まれた。

そこへメールが届き、電話も入る。

机の上には、やることが三つ、四つと増えていく。

どれも大事そうに見える。

どれから手をつければいいか考えているうちに時間だけが過ぎ、

「とりあえず目についたものから」

と始めたら、本当に急ぎだった仕事が後回しになっていた。

そんなことが続くと、

「自分は段取りが悪い」

「どうして他の人みたいにできないんだろう」

と、自分自身の能力の問題にしたくなる人もいます。

先に全体像をお伝えすると、仕事の優先順位を決めることは、単に“重要な仕事を選ぶ”だけの作業ではありません。

複数の仕事について、

期限はいつか。

どれくらい時間がかかるか。

誰を待たせるか。

途中で新しい依頼が入ったらどうするか。

を同時に比べ、状況が変われば順番を更新する必要があります。

そのため、優先順位がつけにくい背景には、

本人の特性だけでなく、仕事の指示の出し方や、職場の条件も関係します。

「優先順位をつけて」と言われても、基準が分からない

職場では、

「優先順位を考えてやって」

と言われることがあります。

でも、

「何を基準に?」

まで共有されていないこともあります。

たとえば、

締切が近い仕事を先にするのか。

重要な取引先を優先するのか。

短時間で終わる仕事を先に片づけるのか。

上司から直接頼まれた仕事を優先するのか。

職場によって基準は違います。

だから、

優先順位を決められない=判断力がない

とすぐに考える必要はありません。

そもそも、判断するための条件が十分に共有されているかを見る必要があります。

発達特性が関係する場合もあります

発達特性のある人の中には、複数の課題を同時に管理したり、その場で重要度を比較したりすることに負担を感じる人がいます。

JASSOでも、注意欠如・多動症の特性として、複数の課題があると重要度や進み具合に合わせて優先順位をつけながら実行することが難しい場合があると説明されています。JASSO

また、厚生労働省の資料でも、仕事の優先順位を瞬時に判断することに、ワーキングメモリーなどの負荷が関係する場合があるとされています。厚生労働省

ただし、

優先順位が苦手=ADHD

と一つの場面だけで判断するものではありません。

疲労。

睡眠不足。

経験の少なさ。

仕事量。

指示の曖昧さ。

頻繁な割り込み。

複数の人から違う指示が来る。

といった条件でも、判断は難しくなります。

ここでは診断名を急ぐより、

「どんな条件のときに優先順位が分からなくなるのか」

を見る方が、実際の仕事では役立ちます。

今回分けたいのは「仕事の量」と「判断の量」

仕事が多いとき、

「仕事量が多いから大変」

と考えます。

でも、負担になっているのは作業量だけとは限りません。

たとえば、

Aをやる。

Bもやる。

Cもやる。

という三つの仕事があっても、

「A→B→Cの順でお願いします」

と決まっていれば、順番を考える負担は小さくなります。

一方、

「全部今日中。状況を見てやって」

と言われると、

作業とは別に、

何を先にするか判断し続ける仕事

が増えます。

つまり、

仕事をする負担と
仕事の順番を決める負担

は別です。

優先順位がつけにくい人の場合、後者がかなり大きくなっていることがあります。

まず「全部の順番」を決めなくてもいい

仕事が5つあると、

1位から5位まで完璧に並べようとする人もいます。

でも、状況は途中で変わります。

電話が入る。

上司から追加依頼が来る。

取引先から返事が届く。

そこで、全部の順位を一度に決めるより、

「今、最初にやる一つはどれ?」

だけを決める方法があります。

たとえば、

今日中か。

誰かが待っているか。

先にやらないと次の人が動けないか。

という基準から、一つ選ぶ。

終わったら、もう一度次を決める。

優先順位を、

朝一度決めたら守り続けるもの

ではなく、

状況に応じて更新するもの

と考えると、扱いやすくなる場合があります。

自分だけで判断しにくいなら、確認していい

「こんなことまで上司に聞いたら、仕事ができないと思われそう」

と感じる人もいます。

でも、優先順位の基準を確認することは、必ずしも依存ではありません。

たとえば、

「AとBがありますが、今日はどちらを優先しますか?」

「今Cを進めています。Dを今日中とのことですが、Cは明日に回して大丈夫ですか?」

と確認できます。

大事なのは、

「何をしたらいいですか?」

と全部を預けるだけではなく、

今の状況と、自分が迷っている点を具体的にすることです。

厚生労働省の発達障害者への職場配慮でも、複数の人から異なる指示があると混乱する場合があり、指導担当者等と必要な対応を検討することが望ましいとされています。厚生労働省

愛知労働局の資料でも、担当作業をリスト化し、優先順位を明示する方法が配慮例として挙げられています。都道府県労働局所在地一覧

「自分でできる工夫」と「職場で整える条件」を分ける

優先順位がつけにくいとき、本人ができる工夫もあります。

たとえば、

やることを一か所に書く。

締切を書く。

「今日」「今週」「後で」に分ける。

一つ終わったら次を決める。

追加の仕事が来たら、元の仕事との優先度を確認する。

こうした方法です。

一方、職場側で調整できることもあります。

優先順位を明示する。

締切を具体的にする。

口頭だけでなく文字でも伝える。

指示を出す人をある程度決める。

仕事が追加されたとき、何を後回しにするかも伝える。

厚生労働省は、発達障害のある人への対応について、特性や程度は一人ひとり異なるため、本人の状態に応じて職場での接し方や配慮を考える必要があるとしています。厚生労働省

つまり、

本人がもっと頑張って優先順位をつけられるようになる

だけが解決ではありません。

本人と仕事の条件を合わせていく方法もあります。

診断がないと相談できないわけではありません

「発達障害かもしれないけれど、診断はない」

「困っているけれど、障害というほどではない気がする」

という人もいるでしょう。

でも、

仕事の優先順位がつけにくい。

複数の指示で混乱する。

何から始めればよいか分からなくなる。

という具体的な困りごとそのものは整理できます。

診断を受けるかどうかと、

今の仕事をどう進めやすくするかは、

同じ話ではありません。

必要であれば、

上司や人事。

産業保健スタッフ。

発達障害者支援センター。

就労支援機関。

医療機関。

などへ相談する方法があります。

厚生労働省も、発達障害のある人への就労支援として、ハローワーク等で個々の特性に応じた職業相談や、関係機関と連携した支援を案内しています。厚生労働省

「優先順位が苦手」で終わらせない

仕事が重なったとき、

「また決められなかった」

と自分を責める前に、

少し分けてみます。

仕事そのものが多い?

それとも、

何を先にするか判断する負担が大きい?

さらに、

基準は分かっている?

締切は明確?

複数の人から指示されていない?

途中で仕事が増えたとき、何を後回しにするか決まっている?

と見ていく。

優先順位をつけることは、性格の良し悪しではありません。

どの情報があれば、自分は決めやすくなるのか。

そこが分かれば、

本人が工夫できることと、

職場に相談した方がよいことも、

少しずつ見えてきます。

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