
職場の話し声や雑音が気になって集中できないとき
音の負担と仕事環境を分けて考える
月曜日の午前10時。
職場で資料の数字を確認していると、隣の席で電話が鳴る。
少し離れた場所では、同僚同士が話している。
コピー機の音も聞こえてくる。
どれも、職場では珍しくない音です。
それでも、数字を確認していた人の中には、途中でどこまで見たのか分からなくなり、最初から確認し直す人もいます。
「周りの人は普通に仕事をしているのに」
「自分だけ集中力が足りないのかな」
そんなふうに考える人もいるでしょう。
先に全体像をお伝えすると、職場の音が気になって集中できない背景は、本人の集中力だけでは説明できません。
音の種類や聞こえ方、仕事内容、周囲の環境、その日の疲れなどが関係している場合があります。
まずは「音に弱い人なのか」を決めるよりも、どの音が、どんな仕事の妨げになっているのかを整理してみます。
同じ職場でも、音の負担は人によって違います
職場には、さまざまな音があります。
電話の着信音。
人の話し声。
キーボードを打つ音。
コピー機や空調設備の音。
突然、後ろから話しかけられる声。
同じ場所で働いていても、これらの音をどの程度気にするかは人によって違います。
たとえば、人の話し声が聞こえていても作業を続けられる人がいる一方で、会話の内容が耳に入り、目の前の文章へ集中しにくくなる人もいます。
また、普段は気にならない音でも、疲れている日には負担が大きくなる場合があります。
ここで注意したいのは、「ほかの人は平気だから、自分も平気なはず」とは限らないことです。
一方で、音が気になることだけを理由に、発達障害や感覚過敏があると判断することもできません。
音の感じ方と、仕事をしている条件の両方を見る必要があります。
音の大きさだけが問題とは限りません
音が気になるというと、大きな騒音を想像するかもしれません。
しかし、負担になるのは音の大きさだけではありません。
人の話し声が気になる
電話での会話や同僚の雑談が耳に入り、文章を読んだり考えをまとめたりする作業が進みにくくなる。
突然の音で作業が中断する
着信音や物を落とした音に驚き、それまで取り組んでいた仕事へ戻るのに時間がかかる。
小さな音が続くことが気になる
空調や機械の作動音など、周囲ではあまり話題にならない音が気になり続ける。
複数の音が重なると疲れる
電話、会話、機械音などが同時に聞こえることで、必要な情報へ注意を向けにくくなる。
このように、同じ「音が気になる」でも、起きていることは違います。
厚生労働省や高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)も、発達特性のある人への職場の配慮として、音などの感覚刺激への対応や、作業環境の調整を紹介しています。
ただし、誰にとっても同じ対策が有効とは限りません。
何が負担になっているのかによって、試す方法も変わります。
今回は「音・作業・条件」を分けてみる
今回の記事で試したい整理は、一つです。
① どんな音が気になる?
電話の着信音でしょうか。
同僚の話し声でしょうか。
コピー機や空調の音でしょうか。
まずは、特に気になる音を具体的にします。
② どんな仕事をしているときに困る?
数字の確認。
文章の作成。
資料を読む。
電話で話を聞く。
考えをまとめる。
同じ音でも、仕事内容によって負担の出方は違うかもしれません。
③ どんな条件で起こりやすい?
午前中の電話が多い時間。
休憩時間の前後。
人の出入りが多い場所。
仕事が立て込んでいる日。
疲れがたまっているとき。
この三つを分けると、たとえば、
「職場の音が全部苦手」
という大きな困りごとから、
「電話が多い時間帯に、数字を確認する仕事が進みにくい」
という具体的な状態が見えてきます。
そうなれば、検討できることも少し明確になります。
自分で試せることと、職場に相談できること
音が気になって仕事が進まないとき、自分で試せる方法もあります。
たとえば、集中が必要な作業を比較的静かな時間帯に行う。
複数の音が気になったら、短時間別の場所で作業できるか確認する。
中断しやすい仕事では、どこまで進めたか分かるよう記録しておく。
こうした方法が役立つ人もいます。
一方で、個人の工夫だけでは変えにくい条件もあります。
電話の多い席に配置されている。
一日中、同じ場所で作業する必要がある。
周囲の会話が頻繁に発生する。
静かに作業できる場所がない。
これらは、仕事をしている本人だけでは変更できない環境条件です。
職場と相談できるのであれば、座席の位置を変える、静かな場所で確認作業を行う、集中が必要な時間を設けるなどの選択肢があります。
耳栓やノイズキャンセリング機器も方法の一つですが、職場の安全上必要な音や呼びかけが聞こえなくなる可能性もあります。
そのため、使用する場合には業務内容や職場のルールを踏まえて相談することが必要です。
本人が集中する努力を増やすことと、仕事をしやすい環境へ調整することは、別の選択肢です。
職場には、困っている場面を具体的に伝える
職場へ相談するとき、
「音が苦手です」
だけでは、何を調整すればよいか相手に伝わりにくいことがあります。
たとえば、
「午前中は電話が多く、数字の照合作業を途中から確認し直すことが増えています。照合作業の間だけ静かな席を使えるか、相談したいです」
という伝え方があります。
この場合、
何が起きているか。
どんな仕事に影響しているか。
何を試したいか。
が具体的です。
もちろん、希望した方法がそのまま実現するとは限りません。
電話対応や安全確認、ほかの職員との業務分担など、職場側にも必要な条件があります。
そこで、本人と職場がそれぞれの事情を共有し、実行できる方法を考えることになります。
発達障害などのある労働者に対する合理的配慮でも、本人の困りごとや業務上の条件を踏まえ、話し合いによって必要な対応を検討することが重要です。
「全部こちらの希望に合わせてもらう」ことと、「困りごとを具体的に伝えて調整を相談する」ことは同じではありません。
発達特性があるかどうか、先に決める必要はありません
職場の話し声が気になることについて検索すると、「ASD」「ADHD」「聴覚過敏」といった言葉が出てくることがあります。
実際、発達特性のある人の中には、音や光などの刺激に敏感で、仕事中に負担を感じる人もいます。
一方で、騒がしい環境で集中しにくくなることは、発達特性の有無だけでは決まりません。
仕事内容。
疲労や睡眠の状態。
職場での緊張。
音の種類。
座席や作業場所。
さまざまな条件が関係します。
そのため、「音が気になるから発達障害かもしれない」と急いで結論を出す必要はありません。
まず、困っている場面を整理して、できる調整があるかを確かめることができます。
ただし、音が痛いほどつらい、耳鳴りや聞こえの変化がある、以前とは明らかに聞こえ方が変わったといった場合は、耳鼻咽喉科などの医療機関へ相談することも考えられます。
仕事への影響が続いている場合には、上司や産業保健スタッフ、必要に応じて専門の相談機関へ相談する方法もあります。
「集中力が足りない」で終わらせないために
周りの音が気になり、思うように仕事が進まない。
そんなとき、まず自分の集中力を問題にしたくなる人もいます。
でも、ここで見たいのは、
どんな音が気になるのか。
どんな仕事が進みにくくなるのか。
どんな条件なら仕事をしやすいのか。
ということです。
仕事を進めるために本人が工夫できる部分もあります。
職場と相談して調整できる部分もあります。
そして、状態によっては医療や支援機関へ相談することも選べます。
音が気になって集中しにくいという困りごとと、その人の仕事への姿勢や人としての価値は、同じものではありません。
自分を評価する前に、仕事がしやすくなる条件はどこにあるのか。
そこを具体的にすることから始められます。

