
仕事の指示を忘れるのはなぜ?
「ちゃんと聞いて」で終わらせる前に整理したいこと
仕事中、上司から声をかけられる。
「この資料を修正して、終わったらAさんに送って。その前に数字だけ確認しておいて」
その場では、
「はい、分かりました」
と答えた。
ところが席へ戻り、別の画面を開いたところで、
「あれ、先に何を確認するんだっけ」
となる。
一つは覚えている。
でも、一つ抜けている。
あとから、
「さっき言ったよね?」
と指摘される。
こんなことが続くと、
「ちゃんと聞いていないと思われているかも」
「どうしてこんな簡単なことも覚えられないんだろう」
と、自分を責める人もいます。
先に全体像をお伝えすると、「指示を忘れる」は、単純に“話を聞いていなかった”という一つの問題ではありません。
仕事の指示を実行するまでには、
聞く
→ 内容を整理する
→ 頭やメモに残す
→ 必要なタイミングで取り出す
→ 実行する
といういくつかの段階があります。
どこで抜けているかによって、整え方も変わります。
「聞いた」と「残っている」は同じではありません
上司が説明している間は理解できていた。
質問されれば答えられた。
それでも、数分後には一部が抜けている。
そんな人もいます。
逆に、
メモには書いた。
でも、あとでそのメモを見ること自体を忘れた。
という場合もあります。
つまり、
説明を理解できたことと、
あとで使える形で情報が残っていること
は別です。
ここを一緒にすると、
「その場で返事をしたんだから覚えているはず」
となりやすくなります。
今回は「どこで抜けた?」を分けてみる
今回の記事での小さな整理は、これです。
指示を忘れたとき、
① 聞き取れた?
② 何をするか整理できた?
③ あとで見られる形に残せた?
④ 必要なときに確認できた?
と分けます。
たとえば、
① 聞き取る段階
周囲が騒がしかった。
作業中に急に声をかけられた。
説明が速かった。
複数のことを一度に言われた。
② 整理する段階
「なるべく早く」
「いい感じに」
「前と同じように」
など、何をすれば終わりなのか曖昧だった。
③ 残す段階
聞きながらメモを取ろうとして、途中から話を聞き逃した。
メモする時間がなかった。
④ 確認する段階
メモはあるけれど別のノートに埋もれている。
追加の仕事が入って、元の指示の存在自体が頭から抜けた。
同じ「忘れた」でも、起きていることはかなり違います。
「メモを取りなさい」だけでは解決しないこともある
指示を忘れると、
「ちゃんとメモを取ればいい」
と言われることがあります。
もちろん、メモが役立つ人はいます。
ただ、聞くことと書くことを同時に行う方が難しい人もいます。
厚生労働省は、発達障害のある人への職場での接し方として、メモに時間がかかる場合には、口頭だけで指示するのではなく、書面を提示して口頭で補足する方法などを紹介しています。厚生労働省
実際の雇用事例でも、
指示を一つずつ出す。
期限を明確にする。
本人が取ったメモを確認する。
作業指示をメールやメモでも示す。
といった工夫が行われています。リファレンスサービス
つまり、
「もっと覚える」だけでなく、「覚え続けなくても仕事ができる形にする」
という考え方もあります。
指示を受けたら、全部覚えるより「3つ確認する」
指示を受けたときは、全部を頭の中に保持しようとするより、
何をする?
いつまで?
何から先にする?
の3つを残す方法があります。
たとえば、
「資料を直しておいて」
と言われたら、
「修正する箇所はこの3点で合っていますか?」
「期限は今日の17時ですか?」
「今やっているAより、こちらを先にしますか?」
と確認する。
これは、
「自分で考えられないから全部聞く」
ということではありません。
自分だけでは判断できない条件を確認する
という仕事の進め方です。
復唱は、「同じ言葉を返す」より確認に使う
「復唱してください」
と言われると、
「資料修正、Aさんに送る、数字確認ですね」
と、そのまま繰り返すだけになりがちです。
でも、仕事では、
自分がどう理解したか
を確認する方が役立つ場合があります。
たとえば、
「数字を確認したあと資料を修正して、今日中にAさんへ送る、という順番で合っていますか?」
と返す。
これなら、
聞き間違い。
順番のずれ。
期限の認識違い。
を、その場で確認できます。
発達特性が関係する場合もあります。でも、一場面だけでは決められません
「指示をすぐ忘れる」と検索すると、
ADHD。
発達障害。
ワーキングメモリ。
といった言葉が出てきます。
実際に、発達特性のある人の中には、複数の情報を一度に扱うことや、口頭の指示を保持しながら別の作業へ移ることに負担を感じる人もいます。
JEEDの2026年改訂マニュアルでも、発達障害のある人への「分かりやすい作業指示の出し方」を扱い、抽象的な指示が理解しにくい場合へのマニュアル活用などが紹介されています。高齢・障害・求職者雇用支援機構
ただし、
仕事の指示を忘れる=ADHD・発達障害
とは判断できません。
疲れている。
睡眠が足りない。
仕事量が増えた。
人間関係で緊張している。
指示が一度に多い。
作業中の割り込みが多い。
といった条件でも、情報は残りにくくなります。
診断名より先に、
「どんな条件のときに抜けやすい?」
を見ることが、仕事を整える手がかりになります。
本人の工夫と、指示する側の工夫を分ける
本人が試せることには、
メモする場所を一つにする。
その日の仕事を一覧にする。
指示を受けたら期限を書く。
一つ終わるたびに一覧を見る。
復唱して認識を確認する。
などがあります。
一方、職場側で変えられることもあります。
指示を具体的にする。
複数の内容を一度に詰め込まない。
重要な指示は文字でも残す。
期限と優先順位を明確にする。
複数の人から違う指示を出さない。
作業中に追加指示を出す場合は、現在の仕事との順番も確認する。
厚生労働省も、複数の人から異なる指示を受けることで混乱する場合には、指導・管理担当者と対応を検討することを勧めています。厚生労働省
「忘れない人になる」ことだけが解決ではありません。
忘れても仕事が止まりにくい仕組みをつくる。
そこにも調整の余地があります。
診断がなくても、仕事のやり方は変えられます
「発達障害の診断がないから、配慮をお願いするほどではない」
と考える人もいます。
でも、
「指示はできれば文字でも欲しい」
「複数あるときは、優先順位も確認したい」
「その場でメモする時間が少し欲しい」
といった工夫は、診断名がなければ考えてはいけないものではありません。
まずは、自分がどの条件で仕事をしやすいのかを知る。
そのうえで、
自分で工夫する。
上司へ相談する。
職場の人事や産業保健スタッフから情報を得る。
必要なら発達障害者支援センターや医療機関などへ相談する。
という選択肢があります。
一度相談したからといって、診断や職場への申告まで決める必要はありません。
情報を得たうえで、
使う。
使わない。
保留する。
別の方法を試す。
という選び方もできます。
「ちゃんと聞いて」で終わらせない
指示を忘れたとき、
「次からちゃんと聞こう」
だけでは、何を変えればよいのか分かりません。
代わりに、
どこで抜けた?
と見てみます。
聞き取るところ?
整理するところ?
残すところ?
あとで確認するところ?
そこが分かれば、
もっと集中する。
だけではなく、
書いてもらう。
一つずつ確認する。
期限を明確にする。
メモの置き場所を決める。
指示する人を整理する。
という方法も見えてきます。
聞く力の問題だけにせず、情報が仕事につながるまでの道筋を見る。
それが、「指示を忘れる」を本人だけの問題にしない整理の一つです。

