心理・福祉コラム

家族が心配で、つい先回りしてしまうとき

「任せる」と「放っておく」を分ける

家族が困っているように見える。

仕事のこと。
学校のこと。
受診のこと。
これからの生活のこと。

本人がまだ動いていないと、

「早めに調べておいた方がいい」

「このまま何もしなかったら困るかもしれない」

と、家族の方が先に調べたり、予定を立てたり、連絡先を探したりすることがあります。

本人から頼まれたわけではない。

でも、見ていると心配になる。

何もしないのも落ち着かない。

そんな状態が続くと、

「どこまで手を出していいんだろう」

「本人に任せた方がいい?」

「でも、それって放っておくことにならない?」

と迷う家族もいます。

先に全体像をお伝えすると、

本人に任せることと、何もしないことは同じではありません。

そして、

支えることと、本人の代わりに決めることも同じではありません。

家族にできることをゼロにするのではなく、

本人が担うこと。
家族が支えられること。
家族以外へ任せられること。

に分けてみると、関わり方を考えやすくなります。

先回りするのには、理由があります

家族が先回りしてしまうと、

「過干渉なのでは」

「本人の自立を邪魔しているのでは」

と、家族自身を責めたくなる人もいます。

でも、先回りにも背景があります。

以前、本人が大きく困ったことがあった。

期限を過ぎてから問題が大きくなった。

本人がつらそうなのに、自分から助けを求めなかった。

家族が動いたことで、何とかその場を乗り越えた。

そんな経験があれば、

「早く動いた方がいい」

と考えるのは不自然ではありません。

これまでの先回りが、家族や本人を守ってきた場面もあったかもしれません。

だから、

「手を出さない家族になろう」

と急に変える必要はありません。

見るのは、

その関わり方が、今の本人と家族にも合っているか

です。

「できること」と「担うこと」は同じではありません

家族から見ると、

「これくらい自分でできるでしょう」

と思うことがあります。

一方で、

「本人には難しそうだから、自分がやった方が早い」

と思うこともあります。

ここで、ここのばでは、

できることと
担うこと

を分けて考えます。

能力としてできることでも、今の心身の状態では担いにくい場合があります。

反対に、少し時間がかかっても、本人が自分でやってみたいこともあります。

家族が、

「できる/できない」

だけで役割を決めるのではなく、

本人は、今どこを自分でやりたいのか。
どこには助けがほしいのか。

を確認する余地があります。

「任せる」は、答えを全部本人に預けることではありません

自己決定というと、

「自分のことなんだから、自分で決めて」

という関わりを想像することがあります。

でも、それでは情報も選択肢もないまま、一人で決めることを求める場合があります。

ここのばで考える自己決定は、少し違います。

情報を聞く。

家族から提案を受ける。

専門家へ相談する。

選択肢を並べる。

メリットや負担を考える。

そのうえで、

使う。

使わない。

今は決めない。

あとから選び直す。

そこまで含めて、本人が選ぶことです。

つまり、

本人に任せることは、家族が何も言わないことではありません。

「こういう方法もあるみたいだけど、どう思う?」

「必要なら一緒に調べるよ」

と情報や支えを差し出しながら、

最後の主語を本人に残す

という関わり方もあります。

家族が先に決めると、本人の「選ぶ場面」が減ることがあります

心配になると、

受診先を決める。

学校や職場へ連絡する。

支援機関へ予約する。

本人が困らないように、家族が先に説明する。

ということが増える場合があります。

それで生活が回ることもあります。

一方で、それが続くと本人には、

「自分はどうしたい?」

と考える場面そのものが少なくなることがあります。

ここで大事なのは、

家族がやったことを責めることではありません。

「今まで家族が担っていたことの中で、本人へ返せそうなものはあるだろうか」

と見直すことです。

全部を一度に返す必要もありません。

たとえば、

家族が相談先を3つ調べる。

その中からどこへ問い合わせるかは本人が選ぶ。

最初の電話は家族と一緒にする。

次回からは本人が連絡する。

というように、支え方を段階的に変える方法もあります。

今回の小さな整理は「3つの置き場所」

家族が「どこまでやればいい?」と迷ったときは、今抱えていることを三つに分けてみます。

本人が担うこと

本人自身の希望。

最終的にどうしたいか。

本人にしか分からない感覚や気持ち。

本人ができる範囲で行う手続きや行動。

家族が支えられること

情報を一緒に探す。

話を聞く。

選択肢を並べる。

本人が希望すれば付き添う。

家庭で無理なくできる範囲を手伝う。

家族以外へ任せること

診断や治療。

専門的な見立て。

学校や職場での調整。

制度の判断。

継続的な専門支援。

「こころの耳」でも、家族だけで抱えず、職場や専門家のサポートを得ることが大切だと案内しています。本人が相談しにくい場合には、まず家族が相談してみる方法も示されています。

ここのばの家族相談でも、本人を動かす方法を探すのではなく、家庭で担う範囲と、他へ任せる範囲を分けることを扱っています。

本人に任せるときも、「戻ってこられる場所」は残せます

本人に任せたあと、

「もうあなたの問題だから」

と関わりを切る必要はありません。

「まず自分でやってみて、困ったら話して」

「ここまではお願いするね。難しかったら一緒に考えよう」

と伝えることもできます。

本人が選べる。

でも、困ったときには相談できる。

この両方を残す。

それが、

任せることと、放っておくことの間

にある関わり方の一つです。

本人の意思だけに任せられない場面もあります

一方で、どんな状況でも本人に任せればよいわけではありません。

命や安全に関わる状態。

心身の不調が強く、自分で助けを求めにくい状態。

日常生活への影響が大きく、専門的な判断が必要な状態。

こうした場合には、家族が外部へ相談することが必要になることもあります。

厚生労働省は、本人だけでなく家族など周囲の人も利用できる公的なこころの相談窓口を案内しています。

「本人が自分で相談すると言うまで待つ」

だけが、本人を尊重する方法ではありません。

安全を守るために周囲が動くことと、

本人の日常の選択をすべて代わりに決めることは、

分けて考えられます。

家族自身の生活も、なくさない

本人が心配な状態になると、

家族の頭の中も、その人のことでいっぱいになることがあります。

今日どうだった?

明日は大丈夫?

ちゃんと寝た?

相談した?

仕事は?

学校は?

気づけば、

家族自身の予定や休みが後回しになっている。

でも、

支える人にも、その人自身の生活があります。

本人のことを考えない時間をつくる。

家族自身が相談する。

別の人にも役割を渡す。

自分の予定を続ける。

それは、本人を見捨てることではありません。

家族だけで抱えず外部のサポートを使うことは、公的なメンタルヘルス情報でも勧められています。

「本人に任せる」の前に、一つ確認する

家族が、

「もう本人に任せよう」

と思ったとき。

あるいは、

「やっぱり私がやった方がいい」

と思ったとき。

どちらかへ急いで振り切る前に、

これは、誰が決めることだろう?

と確認してみます。

本人が決めること。

家族と相談して決めること。

専門家に任せること。

その境界は、いつも同じではありません。

本人の状態や経験によっても変わります。

一度任せてみて、難しければまた支える。

家族が担っていたことを、少し本人へ返してみる。

合わなければ、また調整する。

任せるか、支えるかを一度で決めなくてもいい。

大切なのは、

家族が全部を背負うことでも、

本人を一人にすることでもなく、

本人に主語を返しながら、必要な支えは残しておくこと。

そこから、その家族に合う距離を探していくことができます。

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